16話 危ない領域

  さて、「音吉君のピアノ物語」という熱血ピアノマンガでデビューし、紆余曲折しながら、青年誌へと移り、ヤングチャンピオンという雑誌で仕事をしていた時の話を語ろう。
 前にもそのヤングチャンピオンで過激なマンガを描いていたことに触れたが、今回はそれについてもう少し詳しく・・・ムフフ・・・

 その前から軽いちょっとエッチなものは描いたことはあったが、本格エログロマンガはこの時初めて描いた。ああ、何がハヤシをそうさせたのか・・・

 実は映画館で痴漢にあったのだった。そいつは他の席が空いているにもかかわらず私の隣に来て、案の定痴漢野郎だった。いわゆる露出狂というやつか・・・
 そりゃびっくりしたが、そのニヤついた顔に腹がたった。もう映画どころでない、が、びっくりしたところを見せるのはくやしい。私は知らないふりをすることにした。もちろん触ってきたら逃げる。
 というわけで映画の内容は全く頭に入らなかった。

 ああ、くやしい、こうなりゃ元をとってやらねば、どケチ根性のハヤシは思った。そのとき、ひらめいた。痴漢の話を描こう。くやしさでテンションがめちゃくちゃ上がっていた私は「こうなりゃとことんエログロやってやる」とすぐに話が出来上がり、さっそく担当に見せた。その反応は・・・

 「ハヤシさん・・・こんなすごいのも・・・描くんですね・・・」けっこうハンサムな加勢大周(・・・この字だっけ?)に似た担当さんの顔もニヤついた。後に聞いたがその担当さんかなりの遊び人だったという。ああ、さすがハンサム。
 現在は少年誌にいるが、きっと今も遊び人だろう。「あいつが一番病気もってるんじゃないのか」とヤンチャン編集部の人が言っていた。うむ、ハンサムの掟じゃろう。(ごめん○さん、でも本当にそう言ってたぞ、編集長が)
 ま、ハンサムなので後々少女マンガかレディースコミックの編集長に・・・なるかもなあ。

 それはそれとして・・・そのネームは編集長にそのままもっていかれて、通った。
 「いやあ、編集長も驚いてましたよ。」

 「火遊び」というタイトルでヤングチャンピオンに読みきりで載った。エリートサラリーマンが女子高生を痴漢し、女子高生もそれに負けずそいつを罠にはめようとするのだが・・・という内容で人気もとれた。このエログロ路線で次も、ということになった。

 またテンションを上げなければ・・・その頃村生ミオ先生の「サークルゲーム」というサスペンス風のエログロが入ったマンガがヤングチャンピオンでダントツの人気をとっていた。並みのテンションでは太刀打ちできない。テンションを上げるためにエログロ残酷小説を読み、写真集(弟の)をじっくり観察、とにかく気分を暗黒パワーで充満させた。
 人を陥れるシーン、残酷なお仕置きシーン、吐き気のするような犯罪シーン、次々に思い浮かべ1番過激なものを取り出し話を作っていく。テンションを下げたら負ける・・・

 エログロシリーズを描いているときの私はすこし狂っていたかもしれない。いかにして残酷なことを考えるかが第1の仕事だったからだ。男性作家に負けないエログロ、「ハヤシさん突き抜けましたねえ」とほかの編集さんからもほめられた。親戚のおじさんからは「すごいの描いてるんだって?」と興味しんしんだ。うう、ヤング○ャンピオンを読んでるのかい?

 しかしずっとエログロを考えているのが、だんだんキツクなってきた。そう、私はそういうテーマがものめずらしかっただけで、それが好きというわけではないのだ。(ホントだぞ)

 あなたはこんなのが描きたかったのか?と問われたらやっぱりノーだ。こういうのも描けます、という程度の気持ちだ。
 麻薬を打つようにエログロ残酷モノを小説でも映画でも読んで観てテンションを上げて、でもそれも麻痺してきた。「麻薬」もそろそろ効かなくなってきた。テンションが下がる・・・
 担当も替わり、「おもしろい」といって盛り上げてくれたが、最初のテンションには戻れなかった。

 そのうちヤング○ャンピオンはエログロが増えてしまい、私の入り込む余地はなくなった。都に「有害図書指定」されたら終わりだ。
 そして私の担当さんがまた替わった。
 前の担当さんが異動になり、ちょっと前になるが、引継ぎあいさつに久しぶりに編集部を訪ねた。ああ、今度は江口洋介を小さくしたような、ハンサム君・・・君も将来は少女・レディコミの編集長かも・・・
 「人気とるにはやっぱり・・・」
 「エロとバイオレンスでしょ」と江口洋介似の新しい担当さんはきっぱり言う。

 ま、エログロだとやばいけど、ただのエロエロなら入る余地はある・・・ということなのだろうか。

 さらに江口洋介似は「音楽家って、あちらの方もすごいんでしょ。僕は相当なことやってたと思いますよ。そういう話はどう?過激プレーに走る変態ショパン・・・」みたいなことをおっしゃる。ここには語れないようなすごいことを・・・
 ショパン・エロエロ炸裂♪ってな感じだ。ああ、江口洋介似・・・あんたも好きね・・・
 本当に有害図書指定になったらどうする!

 描きたいものを描きたかったら、まずは人気を取って、漫画家として名を売ってから、それから描け、という人もいる。それが実績というものだ。

 しかし・・・それはそうだけど、やっぱりほんとに描きたいものを今描かなくてどうする、とも思うんでアル。とくに最近、持ち時間は少ないのだと感じる今日この頃・・・ハヤシはもうそんなに若くないのだ・・・残りのパワーをどう使うか・・・少なくとも変態ショパン・エロエロ炸裂♪に使ってはいけない。
 そうハヤシはエロエロ抜きでピアニストのマンガが描きたいのじゃ。ハヤシの持っているマンガエネルギーはそれにすべて費やそう。今は変態ショパン・エロエロ炸裂♪にまわすエネルギーはないんじゃ。

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