10話 連載体験記 2

 ずっと前の「連載体験記」のつづきじゃ。
 
 さて、スーパージャンプの連載を終えて、秋田書店のヤングチャンピオンに移る私なのだが・・・
 スーパージャンプを終える9ヶ月前、集英社の「少年ジャンプ、手塚、赤塚賞」の帝国ホテルでのパーティーでのこと。(これは毎年12月に行われる忘年パーティーのようなもので、少年ジャンプとスーパージャンプは同じ部署にあるためスーパージャンプのマンガ家も呼ばれるのだ)
 私は最初にお世話になった元担当からこう言われたのだった。

 「金崎」(私が連載していたマンガのタイトル)が終わったら、次はもうないよ。だって「金崎」以上のもの描けないでしょ。だから死んでも「金崎」を続けなきゃ・・・と

 その元担当は当時スーパージャンプの「デスク」(主任)に昇格していた。そのデスクが次はないと言ったのだ。
 もちろん私を奮起させようとして言ったのだろうが、私はその言葉を重く考えた。
 たしかに「金崎」以上のギャグは描けない。いや、ギャグそのものが、もう描けない。そして「金崎」をこの先何年も続ける自信もない。
 ストーリーものも、スーパージャンプで人気のとれそうなものは描けない。採用の確率はかなり低いだろう。
 スーパーではもう、私に次はないのだ。

 その頃ちょうど、つきあいのあったヤングチャンピオンの担当から、そろそろ連載の企画をと言われていた。
 ヤングチャンピオンとはスーパージャンプの連載をとる前から、私が持ち込みをしていてコメディもの読み切りを3本ほど描いていた。そこで人気がとれたのだった。

 少年ジャンプはマンガ家に専属契約を結ばせて、契約期間中は他の編集部と連載企画を相談するのは禁止しているが、スーパージャンプはそういうことはない。

 というわけでスーパーでの連載が終わった後、ヤングチャンピオンで女の子主人公でハンドボールものコメディスポーツマンガを始めることになった。

 しかし、人気がとれず半年で打ち切りに・・・でもケーブルテレビのハンドボール番組の取材を受けてテレビに出たんだぞ(ミジメな自慢じゃ、ハヤシ)
 ・・・ああ、それなのに、それなのに・・・でもうちはケーブルテレビは見ることできない。そういううちの方が多いだろう・・・うむ。
 これでコメディスポーツものはもう採用されない。次、失敗すれば後がない。人気の取れそうなものに路線変更しなくては・・・

 そして今度はエロものホラーサスペンスものを描くことにした。
 まずは読み切りで、まあまあの人気がとれた。この路線で行こうということに・・・。

 途中、担当が移動になって変わったが、路線は変わらなかった。
 3本描いて、そろそろ集中連載の企画を、ということになった時、問題が起きた。
 ヤングチャンピオンではその頃、過激な描写のマンガが結構多く、これ以上増えたらコンビニに置かれない、取り締まりがきつくなってきたのだった。(かなり昔だけど小学館のヤングサンデーがその手の問題で騒がれたことがある)
 人気をとるために私もそういうマンガを描いていた。
 また路線変更するべきか?しかし・・・

 人気をとるためだけに、そして企画の通りそうなものだけを描いていた私は、何を描いたらいいのか、分からなくなってしまった。
 4本目を描いた時、モチベーションが下がっていることに気づいた。どんなにしてもテンションが戻らない。

 今までサスペンス、ギャグ、スポーツもの、コメディと何でも描いた。編集が求めるものを描くのがプロのマンガ家の仕事なのだと・・・
 しかしある編集に言われた。
 「ハヤシさんの売りって一体何なの?」

 私は何でも描けるんだと思っていたのは、単なる驕りだったのだ。「器用貧乏」ってやつだ。ソツなくこなしていたつもりが、何の武器もない、このままじゃマンガ家として使い物にならなくなるだろう。いや、すでにそうなりつつあるのだ。

 私の売りって何だ?ほかのマンガ家に負けないもの・・・
 と言うわけで今、自分の1番得意なものを描こうと思ってるんである。もう後はない。

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