街かど農園通信  (2009/01/17更新)


  街かど農園は関東平野の北縁、県庁所在地の駅前にあります。周囲2キロほどをビル街と住宅に囲まれ、一日に数時間だけ太陽の恵みを受ける場所。駐車場の一部を使っているので、広さは3×15メートルほどでしょうか。南と東は三階建てのビルで、北側は寒風の吹き抜ける駐車場です。どう見ても農園とは呼べない狭苦しい空間で、通りがかりの人々は絶対に農園があると思いません

   

  もう14年前になりましたが、阪神大震災の起こった週に引っ越して来ました。寒い真冬の最中に引っ越したのですから、当日は被災者の仮設住宅のような有様でした。土地といっても5センチほど伸びた霜柱の下に、さらに5センチほど凍った赤土があって、スコップの歯も立ちませんでした。真弓と枇杷がヒョロヒョロと伸び、花の咲かない夏椿が2本、駐車場に日陰を作る積もりで植えられていました

  30センチほど土を掘り下げると瓦礫が出てくるという最悪の土地だったのです。誰も振り返ろうとしないビルの谷間に残された地面が街かど農園の出発点でした


   

  今はビワが3本、アンズが2本、メスレー(スモモ)2本、ソルダム(スモモ)1本、栗が3本、それにプルーン(スモモ)が2本とブルーベリーにラズベリー、ブラックベリーと密林のような状態になっています

    

  夏には木々の間にナスやキュウリやミニトマトを作りますし、間にミョウガやフキも植えてあるので、足の踏み場もありません。昨年はアスパラガスの苗で、今年はゼンマイまで植えてしまいました

  

  

  それでも北側の道路を通る人の中には、驚き呆れながら覗き込む方があります。なにしろビル街の密林に次々と花が咲き乱れ、大きな果実まで下がるのですから。とくにアンズやスモモの収穫期、そして栗が実る秋になると、道を行く人が不思議な表情で振り返ります

   

  もっとも冬には見る影もなくなってしまいますが、秋には食べきれないほどの収穫を齎してくれます

    

  凍てついた狭い地面が農園に変身したといっても、特別な魔術を使った訳ではありません。運動不足を解消するため、週末になると狭い地面を掘り返し回っただけなのです。それも生ゴミを捨てるために穴が必要だったからで、最初から果樹園にしようと思っていたのではありません。友人からもらったアンズが勝手に育ち始め、これなら他の果樹も大丈夫だろうとなったのです

  もともと狭すぎるほど狭い土地なので、使った道具はスコップと枝切り鋏と浅鍬に携帯噴霧器ぐらいです。後は脚立の兄貴分と土嚢袋に鳥避けや虫除けの網でしょうか。道具といっても観賞用の庭を手入れする程度で、電気だの燃料を使う仕掛けは一切ありません。お金をかけて作物を手に入れるのでは、単に売り買いするのと同じことになります

  街かど農園の理想は完全循環型の都市農業で、低コスト省資源ですから、目的に反するような道具は一切使わないようにしています。労働力を投入する量は増えますが、街かど農園の特徴は徹底した有機栽培と減農薬にあります。とくに肥料は台所から出る生ゴミと駅前から集めてくる落ち葉、それに安い鶏糞を少量しか使いません。農薬ゼロでは果実の収穫が激減してしまうため、残念ですが最低限は使わざるをえません。もちろん自分たちの口にする食材を作るので、安全と考えられる範囲にしています。そんな夢のような果樹園が実現できる秘密を皆さんに教えましょう



街かど農園の理想

  街かど農園は現実の土地と作物だけを問題にしているのではありません。たくさんの収穫を得て市場で売るのは専門農家の仕事で、街かど農園とは別の考え方だと思います。私たちが日常の生活を送る中で何が必要で、そのために何をするべきかを考える手段あるいは切っ掛けが街かど農園です。ある意味で趣味の世界ですから、最初は「丸ごと食べる庭」と呼んでいました。もし収穫物で利益を上げようと考えても失望して終わると思います。ただ自分たちが食べて余った分を、どなたか欲しいと言ってくださるのであれば、とても幸せなことです

  何処の街かどにも作れるものでなければ、街かど農園と呼べないでしょう。半世紀ほど前を振り返れば、家々に果樹が植えられ、柿やスモモを取って食べた記憶が蘇ります。街外れには野菜畑もあれば果樹園もあったのです。ところが現在の都市には何も残っていません。何とかヒルズに植えられているのは、決して実の生らない庭木だけでしょう。

  街から畑や果樹園を追放したことで、私たちは経済発展を実現したかもしれませんが、一方で大切な潤いと愉しみを失ったのではないでしょうか。お仕着せの街路樹が唯一の緑という街が、本当の故郷になるとは思えないのです

  ですから街かど農園には、街あるいは町を再生するための道具という意味があります。庭脇の果実を黙って食べたり、知り合いから「御裾分け」が来たりするのは、とても楽しいことでしょう。大袈裟に言えば二十一世紀の街を新たに創り出す試みの一部と言えかもしれません。全てが金銭で取引される世界の一角に、まったく別の原理で動くミニミニワールドが共存できるのを示したいのです。土一升金一升で良いのでしょうか

  街かど農園は完成した商業農園ではありません。正しく考えることを主体に、21世紀の「農」を創造しようという実験なのです。10メートル四方もない日陰の土地を耕す素人が何を言うのか、そうした批判は覚悟の上です

  それどころか新しい発想で何が生まれるか、耕作者自身が見当もついていません。ただ自然と人間の関係を素直に見つめ直すのが、私の目的なのですから。とにかく船出して続けることで、何処まで行けるのか、自分自身で楽しみにして行きます

  2008年の春。街かど農園に13回目の春が廻って来ました。最初にアンズの花が開き始めると、次々に花々が咲き乱れます。花の下にはフキノトウ

   

  メスレーにソルダムといった果樹も、元気に白いベールを纏っています

   

昨年は一輪だけだったアーモンドが、立派な花を咲かせました

  

  かなり不安に思っていたプルーンですが、ほんの少し花を着けました。数年もすれば食べられる実がなるのではないかと、期待ばかりが膨らみます


  庭というより農園ですが、ビルの間に束の間の桃源郷が出現する楽しみ。これがなければ辛い農作業に耐えられません

    

  昨年の秋は栗が豊作でした。一粒50グラムがゴロゴロ落ちたのには驚きかされました。肥料を与えなくても勝手に実は大きくなるものです

  子どもたちが独立したので、秋のバーベキューはなくなりましたが、それでも焼き芋用の鉄鍋で栗を焼くと美味しい秋です

街かど農園で作った農産物加工品の一部を経鈷堂を通じて頒布します


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